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日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)が交流開始50周年を記念する特別首脳会議を都内で開き、海洋を含む安全保障の協力強化などを盛り込んだ共同声明を採択した。
共同声明には「民主主義や法の支配などの原則を堅持する世界を目指す」「自由で開かれたルールに基づくインド太平洋地域を促進する」との文言が盛り込まれた。覇権主義的な動きを強める中国を念頭に置いたものだが、ASEAN加盟国間にある対中姿勢の温度差に配慮し、名指しを避けた抑制的な表現となった。
岸田文雄首相は「世界が複合的な危機に直面する中、日本は『自由で開かれたインド太平洋』の要であるASEANとともに立ち向かう」と強調した。力による現状変更をはかったり、経済的威圧を行ったりする中国と異なり、地域の平和と発展をともに創るパートナーであると発信していくべきだ。
日本は1973年、日本の合成ゴムの輸出による貿易摩擦を巡ってASEANと初めて閣僚会議を開いた。激しい反日デモなどもあったが、77年の「心と心の触れ合う関係構築」などASEAN外交の基本方針発表を機に信頼関係が築かれた。
この間、ASEANもASEANを取り巻く環境も大きく変化した。昨年の域内GDPは計約3・6兆ドルと日本の8割程度となり、名実ともに対等のパートナーになりつつある。南シナ海を巡って米中が影響力を競い合うなど世界秩序の形成に影響を及ぼす地域ともなった。
一方、中国経済の巨大化で日本の存在感は低下傾向にある。2021年の対日貿易額は対中の3分の1程度だった。外務省の昨年のASEAN各国への世論調査では、今後の重要なパートナーのトップは中国で日本は2位だった。ただし、シンガポールの研究所による域内有識者への調査では、地域の安定と発展に寄与してきた活動が評価され、日本は最も信頼できる国に挙げられた。
日本は、これまで培った信頼関係を軸に、多分野での人的交流や科学技術協力など日本らしい支援で各国を引き付けていく必要がある。安全保障の面でも、中国の威圧を受ける南シナ海の沿岸国と連携し、自由の海をともに守り抜いていくべきである。
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2023年12月20日付産経新聞【主張】を転載しています